最近、地方自治体の首長による不祥事が相次いで報じられている。
「自治体の長の責任と権限」の在り方が問われる一方で、私たち有権者が投じる一票の重さを改めて考えさせられている。
今回は“トンデモ首長”誕生の背景、その影響、そして私たち有権者ができることという観点から整理し、いくつかの挙げて挙げて考えてみたい。
なぜ「問題ある首長」が現れるのか
なぜ首長は不祥事を起こし、権限を乱用し、暴走するのだろうか。背景には次のような構造的要因がある。
1)首長に与えられている「強大な権限」
地方自治体の首長には、議会を通さずに条例や予算を決められる「専決処分」など、比較的強い権限が認められている。一説によれば、その権限は米国大統領レベルの強大さであるといわれている。
制度的な余地があると、首長が議会と適切に協働せず、いわば“ワンマン体制”で動きやすくなる。
2)住民との距離・監視の目が希薄になる構造
地方自治体では「住民の目が届きにくい」「議会・監査機能が十分に機能していない」「職員に異動等の圧力がかかる」などの問題点が指摘されることがある。
閉鎖的な環境では、第三者による監視の目がゆるみ、首長による職員へのハラスメントや報復人事などの温床になりやすい。
3)選挙・政治文化の問題
首長選挙では候補者の知名度、キャラクター、キャッチフレーズが目立ちやすく、政策や人柄が十分に吟味されにくい場合がある。また、当選後は継続性、既得権益、支持基盤に依存するようになり、“問題の芽”が育ちやすくなる。
つまり、制度・監視・文化という三つの構造的欠陥によって、“トンデモ首長”が出現しやすい環境が作られているというわけだ。
具体的な事例から見る影響と背景
ここで、記憶に新しい具体例を報道順にいくつか挙げてみる。
2025年11月5日現在、報道・調査段階にあり、最終的な収束・法的判断が確定していないものも含む。また、出直し選挙で再選した首長についても、一度は世間を騒がせ、県政・市政を停滞させたとして取り上げることとする。
福岡県宮若市長 塩川秀敏(現職)
塩川氏による市職員に対するハラスメントがあったとして、2023年11月27日、複数の市職員が職場環境の改善を求める要望書を市の公平委員会に提出した。まもなく百条委員会が設置され、8件のハラスメント行為が認定された。
市議会は2度にわたる不信任決議案を採択したが、いずれも否決された。
兵庫県知事 斎藤元彦(現職)
いわゆる「県庁内部告発文書問題」は2024年3月、元西播磨県民局長が斎藤氏のパワーハラスメントや違法行為疑惑を記した告発文書を県庁外部へ送付したことに端を発する。
県はこれを公益通報と扱わず、告発者特定の調査を進めて懲戒処分を実施。一方、第三者委員会は「通報対応は公益通報者保護法違反」として斎藤氏のパワーハラスメントを認定した。
百条委員会も設置され、県職員にアンケート調査を実施。約4割の職員が“パワハラを見聞きした”と回答。委員会の調査が進む中で県議会に不信任決議案が提出され、全会一致で可決された。
斎藤氏は失職するも、2024年11月の出直し選挙に立候補、再選をはたす。
前・秋田県鹿角市長 関厚
2024年6月、市議会で職員等に対するパワーハラスメントが指摘される。
2025年1月、第三者委員会が12件をハラスメントに認定。市議会が関への不信任決議案を提出、可決された。
同年2月、これを受けて関は市議会の解散を選択したが、市議会議員選挙では関の不信任決議案に賛成の議員が多く当選した。
同年3月、2度目の不信任決議案が提出され、可決された。関氏は失職する。
2025年4月、関氏は出直し市長選に立候補したが、落選している。
沖縄県南城市長 古謝景春(現職)
2024年11月、公用車の運転手にわいせつな行為をしたとして、古謝氏は強制わいせつ容疑で那覇地検に書類送検された。だが2025年2月、嫌疑不十分で不起訴となっている。
2025年5月、古謝氏のハラスメント行為を調査していた第三者委員会は報告書を提出し、一連のハラスメント行為を“悪質かつ深刻”と認定した。古謝氏はその一部を認めている。
2025年9月、市議会は実に4回目となる古謝氏への不信任決議案を可決した。これまでは議会多数派の与党議員の力で否決されてきたのだが、被害を訴える女性が古謝氏との会話や古謝氏が口止めを強要する様子を録音した音声データの存在が報道されたことで、与党議員も今回ばかりは賛成に回ったということか。
翌月、古謝氏は市議会の解散を選択した。
ちなみに市議会議員選挙では、市長選の2倍、約2,000万円の税金が使われるとのことだ。
群馬県前橋市長 小川晶(現職)
2025年9月24日、市の幹部職員(既婚男性)と複数回にわたりラブホテルに通っていたことを報じられた。同日、小川氏は臨時会見で事実を認め、“男女の関係はない”、“仕事に関する相談や打ち合わせのためだった”、“誤解を招く軽率な行動だった”と述べている。
市議会は進退への速やかな決断を求めたが、小川氏は自身の給与を50%減額した上で“公約実現を求める市民の声に応えたい”と続投する意向を表明している。
一方で、報道に関する小川氏の説明は、市民の理解を得られたとは言い難い。
市民に向き合おうとしない市長に、何を期待できるだろうか。
今のままでは市長の信用失墜、行政運営の混乱、市民の信頼を損なったという事態は避けられない。
前・静岡県伊東市長 田久保眞紀
2025年6月、市長に就任したばかりの田久保氏の学歴詐称を指摘する文書が、市議会宛てに届いた。
以降、市議会による田久保氏への追及が始まるが、連日の報道で百条委員会と田久保氏のやり取りを見せられる伊東市民の心中は察するに余りあるものだった。
とはいえ、伊東市民の多くが先の市長選挙で田久保氏に投票したことは事実だ。
市議会の解散を挟んだ2度の不信任決議案は可決され、田久保氏は失職した。
伊東市史上最短となった“田久保市政の156日間”とは何だったのか。
その間、質の悪い寸劇を見せられているようで不快に感じた市民も多かろう。
その“劇中”で話題となった、市議会に提示を求められた卒業証書を“19.2秒見ていただいた”との田久保氏の発言から、「卒業証書19.2秒」が今年の「新語・流行語大賞」にノミネートされたことは悪い冗談だ。
話の本筋に近づくとはぐらかし、枝葉については饒舌で。詐称は明らかに罪だが、例えば「市長選に立候補するにあたり、どうしても大卒の学歴がほしかった」などと釈明してもらった方がもはや誠実な対応に思える。
2025年5月、田久保氏が前職との争いを制して当選した市長選挙の費用は約3,000万円。その5ヶ月後、田久保氏が議会を解散したことで行われた市議会議員選挙の費用は6,300万円とされる。そして来月、今年2回目の市長選挙が行われるが、その費用は3,700万円だそうだ。
無論これらは全て公費、すなわち税金である。
繰り返さないために──有権者としてできる3つのこと
では、有権者である私たちは、こうした“トンデモ首長”の問題をどう防ぎ、適切に対処できるだろうか。以下、いくつかの実践ポイントを挙げてみる。
其の一 候補者をしっかりチェックする
○候補者の政策だけでなく、人柄や過去の言動、実績はどうか
○公約の実現性・行政経験・市民との関係性はどうか
○支持者・団体との利権的なつながりはどうか
といった観点で候補者を見ることが重要となる。「甘い言葉」や「派手な演出」に騙されず、また「有名人だから」「若いから」「女性だから」というだけで投票しないことだ。
そしてもう一つ。「候補者Aはイヤだから、候補者Bに投票しよう」といった考え方には気を付けたい。候補者Aに投票したくないということは理解できる。だがそれは候補者Bに投票する理由にはならないだろう。まずはしっかりと候補者Bをチェックする。その結果、Bもイマイチなら白票でもよいのではないだろうか。
其の二 選挙に参加し、継続的に関与する
自分が投票した候補者の当落だけではなく、選挙後も県政や市政をフォローすることが有権者の責任と考える。首長は選挙公約の実現に向けてどう活動しているか、議会では何が話し合われているかくらいは知っておきたい。
政治は政治家のものではなく、私たちの問題に直結するということを改めて認識し、継続的な関心を持つことは大切だ。
地方自治法には、住民が首長・議会議員の解職請求(リコール)を行う制度がある。ただし、署名数等ハードルは高く、発動されることは希だが、リコール制度を知っておくこと自体が、首長や議会議員の暴走に対する抑止力となるだろう。
其の三 情報を多角的に入手し、冷静に判断する
首長の不祥事報道やSNSで「炎上」している事案ほど、情報が断片的で市民は感情的になりやすい。
あらゆるメディアを使って、事実・経緯・議会の動き・首長の説明をバランス良く確認したい。
また、有権者として疑問があれば意見を出したり、市役所に問い合わせたりするアクティブさも重要だ。
おわりに
地方自治体の首長には大きな権限が付与されており、そこに制度の緩み・監視の弱さ・政治文化の課題が重なると、「トンデモ首長」が出現しやすい構図が見えてくる。実際、今回例に挙げたハラスメント、不祥事、議会解散のケースがその一端を示している。
これらの事態は、「信頼の失墜」「行政の混乱」「民主主義の後退」といった深刻な影響をもたらす。しかし、有権者としてしっかりとしたチェックを行い、選挙・議会・リコール制度を活用し、情報をクリティカルに捉えることで、こうした事態を防ぐ力を持つことができるだろう。
自治体は市民の生活に最も身近な政治の場だ。だからこそ、首長一人に任せきりにせず、市民一人ひとりが関心を持ち、参画し、監視・評価する姿勢が非常に重要となる。
自治体の危機は市民生活の危機なのである。
(四谷)
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沖縄タイムス+プラス:[社説]南城市長が議会解散 権力乱用は許されない/2025年10月7日
