災害時に頼れるキャンプ装備──日常と非常時をつなぐ備え方

12月8日午後11時過ぎ、青森県東方沖を震源とする大きな地震があった。

一時津波警報が出され、怪我をされた方もいたようだ。現在も「後発地震注意情報」が発表されているが、まずは何事もないことを祈るばかりだ。

日本で暮らすということは、常に地震と隣り合わせであることを改めて思い知る。

もうかれこれ15年近く前になるが、筆者は東日本大震災を仙台で経験した。

地震発生時にいた地域は震度6弱を観測した。身の回りの様々なものが飛び跳ね、ぶつかり合い、床に落ち、壊れる音。大きく歪む目の前の空間。今でもまざまざと思い出すことができる。

ビルの4階にいて為す術もなく、はじめて「生命の危機」というものを感じた数分間だった。

夕方にかけて降り出した雪も夜には止み、停電のため真っ暗だった街に満点の星空が広がっていた。

星明かりを頼りに帰宅し、足の踏み場がなくなっていた自宅から毛布を運び出し、車中で一夜を明かすことにした。どうしようもない寒さの中で、日常が壊れたことをようやく実感した。

ラジオをつけると、市内のほぼ全域でライフラインが障害を起こし、海岸に近い地域では津波により甚大な被害があったことを何度も伝えていた。

事故が発生した東京電力福島第一原子力発電所から、“南風に乗って放射性物質が飛んでくるらしい”という情報には随分と振り回されたものだ。

そのうち、震度5弱程度の余震には慣れてしまった。

結局、被災したとはいえ、筆者は“かすり傷”だったのだ。

自宅は仙台駅から約3kmの圏内にあったが、停電は4日で解消され、同時に水道も使えるようになった。体感では1週間程にも思えた。実際、電気と水が絶たれるのはかなりきつい。

ガスは当初「復旧は半年かそれ以上かかる」とされていたが、実際は1か月程度で済んだ。ちなみに、わが家のガス供給再開日は4月8日だったが、前日に最大震度6強の余震が発生したため2日程延期になった。

心身にゆとりができると周りの状況が見えてくるものだ。

それぞれに被災した人たちが自宅の庭先にタープテントを設置し、カセットコンロで湯を沸かし、バーベキューグリルで調理する様子に、「備え」の大切さを教えられた。

それ以来、水や食料だけでなく、日常生活における必需品を備蓄するようになった。当時はマンション住まいだったため装備は限られたが、災害時は車で生活できるようにトランク内の整理を始めた。

まさにこれからキャンプに行くかのように──。

目次

はじめに──キャンプ装備は「最強の防災セット」になり得る

大地震や大規模災害が発生した際、私たちが直面するのは「日常生活の停止」である。

電気・水道・ガスが止まり、家が使えなくなる。避難所は混雑し、プライバシーも十分に確保できない──。そうした状況でも、自分の手で“小さな生活環境”を再構築できる力があるのが キャンプ装備だ。

何もない“野”から始めるキャンプは、災害時にこそ強みを発揮する。

本来、キャンプギアは野外で快適に過ごすための道具だが、防災と非常に相性が良いことで注目されている。

「生活に必要な機能がほぼ揃う」「ザックなどに入れて移動できる」「普段から(キャンプで)使って慣れておくことができる」という特性は、防災セットとして非常に理想的だ。

本稿では、災害時に必要な装備を整理し、さらに“あると本当に助かるギア10選”を使い方とともに紹介する。あくまで「災害時にも使える装備としてのキャンプギア」という観点で、注意点も併せてまとめた。

家の機能が失われたとき、何が必要になるのか

災害発生時には、次のようなインフラ障害が同時に起こる可能性がある。

① 電気が止まる(停電)

夜は完全な暗闇

○冷暖房が使えない

○スマートフォンが充電できない

○冷蔵庫が全滅する

 ⇨ 明かりと電源の確保が最優先事項。

② 水が止まる(断水)

○飲料水の確保が最も重要

○食器洗い・料理・トイレが困難

 ⇨ 水タンク・非常用トイレ・湯沸かし環境が鍵になる。

③ ガスが止まる(調理不能)

○お湯が使えない

○食事が限られる

 ⇨ ガスバーナー・クッカーで代替可能。

④ 自宅損壊や余震で屋外避難を求められる

○就寝環境を自分で確保する必要

○雨・風・寒さから身を守る

 ⇨ テント・寝袋・マットが避難所の混雑を回避する選択肢にもなる。

このように、インフラが止まると“生活の基盤そのもの”が揺らいでしまうものだ。そこで、家の機能が停止した時、身の回りに“もうひとつの小さな生活圏”が必要になる。

その役割を果たせるのが、キャンプ装備なのである。

災害直後〜数日を生き抜くためのギア

災害時は、「判断力が落ち」「明かりがほしい」「荷物を最小限にまとめたい」といった状況に置かれる。

そこで必要になるのが、「一人で素早く扱える」「軽量」「コンパクト」「普段から使って慣れている」といった条件だ。これらはまさにキャンプギアがもつ特徴で、被災時に手にしたギアが見慣れ、使い慣れていて、不安やストレスを減らす一定の快適性があれば、混乱状態で大きなアドバンテージとなる。

災害時にも役立つ! キャンプギア10選

以下では、必要性の理由と使い方をセットで紹介する。

① ヘッドライト(予備電池つき)

○両手が自由になることが最大のメリット。

○停電直後の暗闇の中では、懐中電灯よりもヘッドライトが圧倒的に便利。

○枕元に常備し、非常用電池も忘れずに。

○赤色ライト付きは夜間に便利。

② モバイルバッテリー(なるべく大容量・ソーラーパネル併用)

○災害時は情報が命。情報収集の要であるスマートフォンのバッテリー切れは致命的。

○20,000mAh以上のモデルが安心。折りたたみソーラーパネルがあると充電難民にならない。

○USB-C急速充電対応なら効率が良い。

○残量30%以下にしない。

○充電しながらの利用は最小限に。

○災害時は画面輝度を下げる(省電力モードON)。

③ コンパクトガスバーナー(OD缶 or CB缶)

○お湯が沸かせるだけで生活の質が劇的に改善する。

○インスタント食品やレトルト食品を安全に調理できる。

○温かい飲み物は精神的安定にもつながる。

○CB缶(カセットガス)は家庭用ストックと互換性があり便利。

○風防があると屋外でも火力が安定。

○一酸化炭素中毒に注意し、必ず屋外で使用する。

④ コッヘル(クッカーセット)

○バーナーとセットで“ミニキッチン”が完成する。

○湯沸かし、簡単調理、食器として兼用。1セットで食事のバリエーションが広がる。

○蓋つき・メモリつきのモデルは調理がしやすい。

⑤ 寝袋(3シーズン対応)+ エアマット

○避難所では床が硬く、熟睡できない人も多い。

○フローリングや体育館の床は冷え、冷えは健康を著しく削る。

○避難生活で最もダメージが大きいのが睡眠の質の低下。

○寝袋は保温力が高く、マットがあるだけで体温保持力が段違い。

○寝袋の中に湯たんぽを入れておくのもいい。

○寝袋は「布団代わり+防寒具」の二役をこなす。

○寒冷地なら冬用のダウンモデル、都市部なら3シーズンで十分。

⑥ テント/タープ(屋外での睡眠・休憩用)

○諸事情で避難所に行きづらい場合、テントはプライベート空間として大きな効果を持つ。

○家に入れない場合や車中泊が困難な場合、プライベートスペースの確保は重要な要素となる。

○テントは着替えや睡眠の確保に。睡眠の質が上がり、精神的安定につながる。

○貴重品管理がしやすい。

○タープは一時的な雨よけや、炊事スペースとして活躍。

○ワンタッチ式の軽量モデルは災害利用と相性が良い。

○避難所ではテントエリアを設ける自治体も増えている。

⑦ コンパクトチェア

○「座れる」ということは、想像以上に大きな価値になる。

長時間の待機の際に心身の疲労を軽減してくれる。

○食事・休憩・作業に便利。

○高齢者には特に有効。

○軽量な折りたたみタイプは荷物にもならない。

⑧ ウォータータンク(折りたたみ)

○断水時の最重要インフラ。水そのものより「貯めておく手段」が重要となる。

○水を確保すると一気に生活の自由度が増す。

○公共の給水ポイントで水を確保し、運搬する。

○2個~3個あれば飲料水・生活用水を分けて管理できる。

○10L〜20Lの蛇腹タイプが軽量で扱いやすい。普段はコンパクトに収納できるのが利点。

⑨ ファーストエイドキット(小型で良い)

○キャンパー向けのコンパクトな救急セットは、災害時にもそのまま使える。

○絆創膏、消毒液、テーピング、常備薬など必要最小限でも構わない。

○避難所生活が続くと小さなケガが意外と増える。

⑩ ポータブルトイレ・簡易トイレ

○「水が流れない」環境で必ず直面する問題。災害時に最も困るインフラはトイレだと言われる。

○女性や高齢者にとっては特に重要度が高い。

抗菌性バッグタイプ。吸水性凝固剤つきのもの。

○必要に応じて、プライバシー確保のためのトイレテントも活用できる。

災害利用時の注意点(“キャンプ用だからこそ”気をつけたい)

ソロキャンプ装備は非常に有用だが、災害時に使うにはいくつかの注意が必要だ。

火器・ガスの扱いは必ず屋外で

○室内利用は一酸化炭素中毒の危険が高い。

○余震で物が落下する可能性もあるため、建物の外で使うのが基本。

長期停電での“スマホ依存”のリスクを見越して通信節約を

○常に低電力モードに設定し、地図アプリはオフラインで、SNSの通知をOFFにするなど、バッテリーの節約を意識した運用が重要。

水タンクの運搬は無理をしない

○10L=10kg。体力が落ちているときは重荷になる。

○複数の小容量に分け、キャリーを使うなど工夫が必要。

キャンプ装備は“自己完結型”だが、孤立してはいけない

○自分ひとりで完結できる装備は便利だが、「周囲との連携を断絶しない」ことも防災では重要。

○自治体によっては、地区の避難所に入る際に防犯対策上“入所登録”が必要な場合がある。避難生活の拠点をテントにして避難所に入所しなければ、必要な支援を受けられない場合があるので注意が必要だ。

○キャンプ装備は便利だが、防災の基本は「助け合い」であることを忘れない。情報共有、持ち物の貸し借り、避難先での協力を拒まず、周囲とのコミュニケーションも大切になる。

装備は必ず“日常で試す”

○いちいち説明書が必要な装備は災害時に扱えない。

○日常で使うことが自ずと訓練になる。

○いざという時に初めて使うのでは遅い。火の点け方、寝袋の快適温度、テントの設営、ライトの明るさ等々、すべて一度は試しておくことで、被災時のストレスを軽減できる。

キャンプ装備が防災に向いている3つの理由

①普段から使えるため、劣化しない

○非常用グッズは放置され、気づけば「電池切れ」「壊れている」ことが多い。

○キャンプ装備なら定期的に使うので、自然と点検できる。

生活のすべてを“ミニマムに再構築”できる

○照明・寝具・食事・水・調理。これらの生活要素を小さく・軽く・独立して持てることが強み。

③災害ストレスを大きく減らせる

○暗闇、寒さ、硬い床、騒音、プライバシーのなさ──避難生活は“ストレスとの戦い”でもある。

まとめ──キャンプ装備は“もう一つの生活基盤”になる

災害時、最も困るのは家の機能が止まること──。

キャンプ装備は、そんな状況下で “代替の生活圏” を再構築する力を持っている。さらに、災害時に必要な「生活再構築」の機能をほぼ網羅している。

明かり、電源、水、食事、睡眠、プライバシー

これらを“一人で完結できるセット”として持っておくことは、これからの時代の防災において極めて合理的だ。

普段からキャンプで使えて、防災用品として備蓄にもなる。いざという時に身を守り、精神的負担を減らしてくれるという点で、他の防災用品にはない魅力がある。

本稿で紹介した10のギアは、いずれも「災害×キャンプ」の最小構成でありながら、最低限の生活機能を守る強力な武器になるはずだ。

キャンプの延長に、防災を──。

日常に馴染む“最強の備え”を、今から整えておこう。

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