「老後資金2,000万円問題」の本質

「老後に2,000万円が不足する」──2019年に金融庁の報告書が公表されて以来、この言葉は強いインパクトとともに世の中に広まった。

しかし実際には、“一律で2,000万円が必要”という話ではなく、「平均的な家計モデルの場合、年金収入だけでは不足しがちである」という試算が独り歩きしたものだった。

では、現実的に考えて、高齢者が平均寿命まで生活するために必要な資金は、いったいどれくらいになるのだろうか。

目次

高齢者が単身で平均寿命まで暮らす場合、実際いくら必要

厚生労働省の発表によれば、平均寿命は2024年の時点で女性87.13歳、男性81.09歳であった。ちなみに、女性の平均寿命は40年連続で世界1位であり、この記録は素直に驚嘆すべきものだ。

ここでは、65歳で退職した後、中間をとって男女共に85歳までの20年間を想定して試算する。

1. 老後の平均支出

総務省「家計調査」では、高齢単身世帯の平均支出は月額約15万円〜16万円とされている。

年間支出:約180万円~192万円  *20年では:約3,600万円~3,840万円

 2. 老齢年金の平均受給額

厚生労働省によると、令和5年度の年金平均支給額は以下のようになっている。

 ○ 国民年金(自営業など):月額約5.8万円 → 年額約69.6万円

 ○ 厚生年金(会社員・公務員など):月額約14.6万円 → 年額175.2万円(国民年金部分を含む)

3. 年金だけで足りない“不足額”

国民年金の場合

年間支出(192万円)- 年金(69.6万円)= 年間122.4万円の赤字  *20年では2,448万円の赤字

厚生年金の場合

年間支出(192万円)- 年金(175.2万円)= 年間16.8万円の赤字  *20年では336万円の赤字

このように、高齢単身者が平均寿命まで暮らすには、加入していた年金によって約336万円~2,448万円の不足が発生する可能性があるのだ。

だが、これは飽くまでも“平均モデル”であって、以下の条件で必要額は大きく上下する。

住居費(賃貸か、持ち家か)                                     医療費・介護費                                                      趣味・交際費・車の維持費                                                 長生きリスク(95歳以上など)

つまり、ライフスタイルによって支出額は大きく変わり、先述した試算は人によって大きく異なるのだ。

確かに、国民年金受給者の状況は厳しい。65歳で退職などできるはずもない。まさに“身体が続く限り” 働かざるを得ない状況といえる。さらに程度の差こそあるが、厚生年金受給者も支出を見直さなければ悠々自適な老後とはならない。

要するに、“老後資金2,000万円”という数字は、“それだけあれば何とかなる”というものではなく、一人ひとりが“自分の老後はどれだけあればいいのか”“これからどうやって準備すればいいのか”を見つめ直す指標と捉えることが重要になる。

40歳からできる現実的な老後準備5つ

もし現時点で充分な資産がない場合でも、40歳前半はまだ巻き返しが可能な年代だ。

重要なのは、「年金+資産」の二本立てで安定した老後を作ること。

ここでは、今から実行しやすい5つの準備をまとめる。

1. まずは「必要な老後費用」を可視化する

最初に行うべきは、“自分の老後はどうなるのか”の把握だ。

賃貸か持ち家か                                             何歳まで働くつもりか                                                   年金見込み額はいくらか(ねんきん定期便で確認)                             毎月どんな支出が必要か

家賃・医療費・交際費などを含めた試算を行い、「自分の不足額」を知ることが肝心だ。

2. iDeCo・新NISAなど税制優遇制度をフル活用

40代からなら、積立投資は20年スパンで考えられる。

iDeCo:掛金全額が所得控除、受取り時にも税優遇                                       新NISA(成長投資枠+つみたて枠):利益が非課税

長期・分散・低コストのインデックス投資が基本。

例えば月3万円を年3〜4%で20年積立すると、

 元本:720万円

 想定額:約1000〜1100万円

これは老後資金の基盤になり得る。

3. 「働き方の延長」を視野に入れる

老後資金不足の最大のリスクは、“収入の途切れ”。今は 70歳前後まで働く人が増えている。

40代のいまのうちから、

資格取得                                                            副業スキル                                                        早期リスキリング                                                     体力維持(これ重要!)

を意識し、「働ける期間を5年延ばす」だけで老後リスクは大幅に減るだろう。

4. 住居の問題を早めに解決

老後の支出で最も差が大きいのは住居費

持ち家のメンテナンス費                                                    賃貸の更新料・家賃値上げ                                                バリアフリー対応

40代のうちに、

家のリフォーム計画                                                    固定費削減                                                        住み替えの検討

などを進めておくと、老後の家計は劇的に軽くなる

5. 緊急資金(生活防衛資金)を確保

投資以前に、万一のための現金は必要だ。

 ○ 最低3〜6カ月分の生活費

 ○ 可能なら100万〜200万円の医療・家電買替え予備費

これがあるかないかで、老後だけでなく40〜50代のリスクも大きく変わる。

まとめ──2,000万円問題は“恐れるもの”ではなく、“知って管理すべき課題”

これまでみてきたように、老後資金は「2,000万円ある・ない」ではなく、自分の老後生活に必要な額を自分で試算し管理することが本質だ。

平均モデルでは不足額は500万円〜1,000万円程度に収まるケースも多いが、賃貸・医療リスクを考慮すると、不足額が1,300万円〜1,500万円程度に膨らむこともある。

今回は単身高齢者をモデルにみてきたが、パートナーが居ればまた話は大きく変わってくる。これを機会によく話し合ってみるのもいいだろう。

重要なのは、“必要額の正体”を数字で把握し、40代から淡々と準備を続けることだ。

働き方の延長                                                              投資の活用                                                         住居の整備                                                           緊急資金の確保

これらを組み合わせれば、老後の不安はグッと小さくなる。

「老後資金2,000万円問題」とは、言わば未来に備えるきっかけとしての「合図」に過ぎない。

大切なのは、その合図をどう受け取り、今日から何を始めるか──それだけだ。

  • URLをコピーしました!
目次